【小松 健先生 (国立大学法人東京農工大学 教授)のご講演の様子2025.10.30】
【宮下 脩平先生 (国立大学法人東北大学 助教)のご講演の様子2025.10.30】
セミナーでは、初めに「オオバコから始める植物ウイルス研究 〜ウイルス感染・発病機構の理解に向けて」と題して、東京農工大学の小松 健先生にご講演いただきました。ウイルスに馴染みがない人にも理解できるよう、ウイルス学の基礎から始まり、植物ウイルス研究における課題や、これまでのキャリアで何を考えどのような研究を行ってきたかについて、落語家を思わせる軽妙な語り口で紹介されました。さらに、未発表を含む最新の研究成果についても惜しみなく披露していただき、聴衆からも多くの質問が寄せられました。特に、研究の材料としてきたウイルスの多様性や進化に着目し、フィールドで発生するウイルスの多様性や原宿主であるオオバコにおけるウイルスの生態を解明した研究を興味深く拝聴しました。また、セミナーでの話題は研究内容だけに留まらず、日々研究に取り組む学生の心構えにもおよび、「研究はめんどくさいもの」という言葉が特に印象に残りました。
続いて、「植物ウイルスの社会性と、それを標的とする防除技術開発」と題して、東北大学の宮下脩平先生にご講演いただきました。宮下先生は、実験と数理モデルを組み合わせた斬新なアプローチによって、生物ではないウイルスがあたかも生き物のような社会性を持つことを明らかにしてきました。宿主の細胞に寄生するというウイルス特有の生活環と高い変異率を成立させるために、1つの細胞に感染するウイルスゲノム数(multiplicity of infection:MOI)を一定に保っているという説明は、一見すると不思議なようですが、様々な状況証拠と整合することが分かりました。ウェットな実験では、原因(何らかの実験的な処理)と最終的な結果だけが観察できるのですが、数理モデルと組み合わせることによって、結果に至るまでにどのような過程を経ているかを調べられる点が特に強力であり、強く印象に残りました。
会場からは、参加した学生から多くの質問がありました。先生方からは丁寧な回答をいただき、より理解が深まったように思います。農業生産や植物の生態にとって、微生物との相互作用を理解することは重要な研究課題といえます。今後も継続して関連分野のセミナーを企画し、本学の教育研究に役立てたいと考えています。
教職員・学生にとって非常に有意義なご講演となり、講師の小松先生、宮下先生に多大な感謝を申し上げます。
植物圏微生物学セミナー『多角的なアプローチで開拓する植物ウイルスの未知の生態』と題して、農学部生物資源科学科 橋本将典准教授主催のテニュアトラックセミナーを下記の日程で開催致します。
今回は、東京農工大学の小松健先生、東北大学の宮下脩平先生を講師としてお迎えし、
植物に寄生するウイルスの感染戦略や生態について、最新の研究成果を解説していただきます。
本学農学部に所属する教職員と学生にとって、有益な内容となると期待しています。
記
日 時:2025年10月30日(木)15:00~17:00(開場:14:30~)
会 場:農学総合棟 講義室9(504号室)
対 象:学生、教職員
参加費:無料
講 師:小松 健(東京農工大学 農学研究院 教授)
■■■■宮下脩平(東北大学 大学院農学研究科 助教)
【概 要】
植物ウイルスは植物に寄生し、激しい病徴を示す有害なものから植物のストレス耐性を向上させる有益なものまで、植物と多様な関係を築いている。植物ウイルスは農業生産上の重要性にとどまらず、生命のあり方を理解する上でも興味深い研究対象と言えるが、その感染戦略や生態には多くの謎が残されている。今回のセミナーでは、多角的なアプローチによって明らかになってきた植物ウイルスの感染戦略について、最新の研究成果をご紹介いただく。


